急性毒性
経口
【分類根拠】 (1)~(4)より、区分4とした。旧分類からEUで急性毒性(吸入:蒸気)のGHS区分に変更があったため、急性毒性項目のみ見直したが、分類結果に変更はない(2021年)。
【根拠データ】 (1)ラット(雄)のLD50:908 mg/kg(OECD TG 401)(NITE初期リスク評価書 (2005)、食安委 清涼飲料水評価書 (2009)、DEF MAK (2000)) (2)ラット(雌)のLD50:1,117 mg/kg(OECD TG 401)(NITE初期リスク評価書 (2005)、食安委 清涼飲料水評価書 (2009)、DEF MAK (2000)) (3)ラット(雄)のLD50:445 mg/kg (NITE初期リスク評価書 (2005)、ASTDR ,(1997)、CLH Report (2010)) (4)ラット(雄)のLD50:2,000mg/kg(ASTDR (1997)、DFG MAK (2000)、NITE初期リスク評価書 (2005))
経皮
【分類根拠】 (1)より、ウサギのデータを採用し、区分に該当しないとした。旧分類からEUで急性毒性(吸入:蒸気)のGHS区分に変更があったため、急性毒性項目のみ見直したが、分類結果に変更はない(2021年)。
【根拠データ】 (1)ウサギのLD50:> 3,980 mg/kg(AICIS IMAP (2014))
【参考データ等】 (2)マウスのLD50:696~3245 mg/kgの間(CERI有害性評価書 (2006))
吸入: ガス
【分類根拠】 GHSの定義における液体であり、区分に該当しない。
吸入: 蒸気
【分類根拠】 (1)~(3)より、有害性の高い区分を採用し、区分3とした。なお、ばく露濃度は飽和蒸気圧濃度 の90%(233,290 ppm)より低いため、蒸気と判断し、ppmVを単位とする基準値より判断した。新たな知見に基づき、分類結果を変更した。旧分類からEUで急性毒性(吸入:蒸気)のGHS区分に変更があったため、急性毒性項目のみ見直した(2021年)。
【根拠データ】 (1)ラットのLC50(6時間):9.2 g/m3(4時間換算値:11.3 g/m3、2310 ppm)(詳細リスク評価書 (2007)、EURAR (2007)、AICIS IMAP (2014)) (2)ラットのLC50(4時間):9,770 ppm(ATSDR (1997)、US AEGL (2012)) (3)ラットのLC50(4時間):47,702 mg/m3(9,775 ppm) (MOE初期評価 (1999))
【参考データ等】 (4)本物質はEU CLHにおいて、区分3に分類されている。
吸入: 粉じん及びミスト
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。旧分類からEUで急性毒性(吸入:蒸気)のGHS区分に変更があったため、急性毒性項目のみ見直したが、分類結果に変更はない(2021年)。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
ウサギを用いた皮膚刺激性試験において、本物質の原液を腹部皮膚に24時間適用した結果、軽度の充血、中等度の壊死及び痂皮形成がみられたとの報告 (EHC 163 (1994) や、NITE有害性評価書 (2008))、本物質の原液適用により重度の刺激性がみられたとの報告が (DFG vol.14 (2000)) ある。また、本物質をウサギの耳に1-4回適用した結果、軽微な充血及び表皮剥離がみられたとの報告がある (EHC 163 (1994)、NITE有害性評価書 (2008))。本物質は皮膚に対して刺激性を示すと記載がある (産衛学会許容濃度の提案理由書 (2005)、CICAD 58 (2004))。以上より、区分2とした。なお、本物質はEU CLP分類において「Skin. Irrit. 2 H315」に分類されている (ECHA CL Inventory (Access on September 2015))。非可逆的な影響について情報が無いため区分を変更した。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
ウサギを用いた眼刺激性試験において、本物質を適用した結果、散瞳、角膜炎、角膜混濁を伴う強度の刺激性がみられ、4匹は2~3週間で症状が消えたが、1匹は3週間後以降にも角膜混濁の症状が残ったとの報告がある (EHC 163 (1994))。また、結膜への軽微な刺激及び角膜の障害がみられたとの報告 (EHC 163 (1994)、NITE有害性評価書 (2008)) や、本物質は眼に対して刺激性を持つとの記載がある (産衛学会許容濃度の提案理由書 (2005)、CICAD 58 (2004))。以上、投与3週間後に完全に回復性しなかったことから区分1とした。なお、本物質はEU CLP分類において「Eye. Irrit. 2 H319」に分類されている (ECHA CL Inventory (Access on September 2015))。
呼吸器感作性
データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
データ不足のため分類できない。
生殖細胞変異原性
In vivoでは、トランスジェニックマウスの肝臓を用いた遺伝子突然変異試験で陰性、ラットの肝臓、腎臓細胞を用いた小核試験、マウスの骨髄細胞を用いた小核試験で陽性あるいは陰性の結果、ラットの骨髄細胞、マウスの骨髄細胞、ハムスターの骨髄細胞を用いた染色体異常試験で概ね陽性、マウスの骨髄細胞を用いた姉妹染色分体交換試験で陽性、陰性の結果、ラットの腎臓を用いたDNA切断試験で陰性、ラット及びマウスの肝臓、腎臓を用いたDNA結合 (DNA付加体) 試験で弱陽性、陰性の結果、ラット、マウスの肝臓を用いた不定期DNA合成試験で陰性、マウスの肝臓、腎臓を用いたDNA修復試験で陰性である (NITE有害性評価書 (2008)、EU-RAR (2007)、CICAD 58 (2004)、DFGOT vol. 14 (2000)、IARC 73 (1999)、CEPA (2001)、ATSDR (1997))。In vitroでは、細菌の復帰突然変異試験で陰性、陽性の結果、哺乳類培養細胞の遺伝子突然変異試験、マウスリンフォーマ試験で陽性、陰性の結果、染色体異常試験で陰性、姉妹染色分体交換試験で陽性、陰性の結果、不定期DNA合成試験で陰性である (NITE有害性評価書 (2008)、EU-RAR (2007)、DFGOT vol. 14 (2000)、IARC 73 (1999)、ATSDR (1997)、CEPA (2001))。以上より、in vivo体細胞変異原性試験で陽性結果があり、ガイダンスに従い、区分2とした。
発がん性
ヒトでは本物質の飲料水を介した経口ばく露による疫学研究において、多部位のがん、特に膀胱がん、結・直腸がんの過剰リスクの報告例があるが、副生物のトリハロメタンによる影響の可能性が高いこと、また、職場での本物質吸入ばく露による発がん影響に関する報告は統計解析による検出力が低く、前立腺がん、肺がんの過剰リスクは信頼性に疑問があることを指摘した上で、IARCは本物質のヒトにおける発がん性の証拠は不十分とした (IARC 73 (1999))。 一方、実験動物ではマウスを用いた経口経路による3試験、及びマウスの吸入経路による1試験において、腎尿細管腫瘍が認められ、1試験では肝細胞の腫瘍も認められたこと、またラットを用いた経口経路での3試験で、腎尿細管腫瘍が認められたことを挙げて、実験動物では発がん性の十分な証拠があるとして、IARCは1999年に「グループ2B」に分類した (IARC 73 (1999))。他の国際機関による本物質の発がん性分類としては、ACGIHが「A3」に (ACGIH (7th, 2001))、日本産業衛生学会が「2B」に (許容濃度の勧告 (2015))、EUが「Carc. 2」に (EU-RAR (2007))、EPAが1998年分類で”細胞毒性と再生性の過形成を生じるような高ばく露状況下では「 L (Likely to be carcinogenic to humans) 」、それ以外では「NL (Not likely to be carcinogenic to humans) 」” (IRIS Summary (Access on August 2015)) に、NTPが「R」 (NTP RoC (13th, 2014)) に、それぞれ分類されている。 以上、IARCを含む国際的な既存分類結果はほぼ合致しており、よって本項は区分2とした。
生殖毒性
ヒトでは、本物質職業ばく露と自然流産のリスクの増加との相関性が報告されたが、他の溶媒への同時ばく露を伴う状況であったと記載されている (IRIS Tox Review (2001))。また、飲料水を介した本物質への経口ばく露により、本物質濃度と胎児の子宮内成長阻害との間に相関性がみられたとの報告があるが、塩素消毒により生成したトリハロメタンによる影響の可能性が指摘されている (IRIS Tox Review (2001)) など、本物質ばく露に特異的なヒト生殖能への有害影響について確実な情報はない。 実験動物では、マウスを用いた経口経路 (飲水) による多世代繁殖試験において、高用量群のF1、F2世代の動物では、体重増加抑制、生存率の低下とともに、繁殖指標 (妊娠率低下、同腹児数の減少、出産率の低下) の有意な低下がみられた (DFGOT vol. 14 (2000)、NITE有害性評価書 (2008)) との記述がある。一方、発生毒性影響に関しては、妊娠ラットの器官形成期 (妊娠6~15日) に吸入ばく露した発生毒性試験において、ラットでは母動物毒性が発現する用量 (30、95 ppm) で、胎児には胎児重量、及び頭尾長の低値、骨格変異 (骨化遅延、波状肋骨)、皮下の浮腫とともに、奇形 (無尾、鎖肛、肋骨欠損) の頻度増加が認められた (DFGOT vol. 14 (2000)、CICAD 58 (2004)、NITE有害性評価書 (2008))。また、妊娠マウスの器官形成期 (妊娠8~15日) に100 ppmを吸入ばく露 (一濃度のみでばく露時期を可変させた) した試験でも、母動物に体重増加抑制、軽微な妊娠率低下が、胎児に胎児毒性 (胎児重量及び頭尾長の低値、骨化遅延) とともに、奇形として口蓋裂の頻度増加がみられた (DFGOT vol. 14 (2000)、NITE有害性評価書 (2008)) との記述がある。なお、妊娠ラット、又は妊娠ウサギを用いた器官形成期強制経口投与による発生毒性試験では、母動物に一般毒性影響が発現する用量でも、胎児毒性は軽微 (胎児重量の低値、又は骨化遅延のみ)、ないしは無影響であったと報告されている (DFGOT vol. 14 (2000)、CICAD 58 (2004)、NITE有害性評価書 (2008))。 以上、吸入経路では実験動物で母動物毒性が発現する用量で、奇形を含む発生毒性影響が認められていることから、本項は区分2とした。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
本物質は気道刺激性がある (EU-RAR (2007))。ヒト、実験動物ともに多数の急性毒性データがある。ヒトにおいては、麻酔薬として使用された経緯がある。吸入ばく露により、麻酔作用、咳、眩暈、嗜眠、感覚鈍麻、頭痛、吐き気、嘔吐、腹部痛、衰弱、意識喪失、昏睡、痙攣発作、呼吸速迫、呼吸中枢麻痺、意識障害、急性呼吸不全、不整脈、心血管系抑制作用、心室細動、黄疸、肝細胞変性・壊死、腎尿細管壊死、腎不全、経口摂取で腹痛、悪心、嘔吐、下痢、胃腸管刺激、呼吸中枢麻痺、痙攣発作、昏睡、乏尿症、アルブミン尿、腎障害、腎尿細管上皮の腫脹、硝子及び脂肪変性、肝障害、肝細胞壊死の報告がある (NITE有害性評価書 (2008)、DFGOT vol. 14 (2000)、IARC 73 (1999)、環境省リスク評価第2巻 (2003)、PATTY (6th, 2012)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (2005)、EU-RAR (2007)、CICAD 58 (2004)、ATSDR (1997)、ACGIH (7th, 2001)、IPCS, PIM 121 (1993))。 実験動物では、ラット、マウスの経口投与 (区分1相当) で、協調運動失調、鎮静、麻酔作用、肝臓の小葉中心性脂肪浸潤及び壊死、小葉中心性肝細胞壊死、腎皮質の近位尿細管上皮細胞の再生性増殖、腎臓の細胞増殖、腎臓に重度の壊死の報告、ラット、マウスの吸入ばく露 (区分1相当) で、麻酔作用、肝臓の脂肪浸潤、肝細胞壊死、腎近位・遠位尿細管の壊死、腎皮質の石灰化の報告、ウサギの経皮適用 (区分1相当) で、腎尿細管変性がみられている (NITE有害性評価書 (2008)、DFGOT vol. 14 (2000)、IARC 73 (1999)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (2005)、EU-RAR (2007)、CICAD 58 (2004)、DFGOT vol. 14 (2000)、ATSDR (1997)、ACGIH (7th, 2001)、PATTY (6th, 2012)、CEPA (2001))。 以上より、本物質は気道刺激性、麻酔作用のほか、呼吸器、心血管系、肝臓、腎臓に影響を与えることから、区分1 (呼吸器、心血管系、肝臓、腎臓)、区分3 (麻酔作用) とした。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
ヒトでは約1,950 mg/m3の濃度のクロロホルムに最大6ヶ月間ばく露された作業者13人中全員が黄疸を呈し、うち5人から 1~2.9 mg/Lの血中クロロホルムが検出された (DFGOT vol. 14 (2000)) との記述、他の工場で 80~160 mg/m3の濃度のクロロホルムに4ヶ月以上ばく露された作業者18人に黄疸が観察された (DFGOT vol. 14 (2000)) との記述、また、14~400 ppm (68~1,950 mg/m3) のクロロホルムに1~6ヶ月間ばく露された作業者では、肝炎の進展、黄疸、悪心、嘔吐などの症状がみられ、肝炎の発症は 2~205 ppm (9.7~1,000 mg/m3) のばく露濃度でも生じた (PATTY (6th, 2012)) との記述、さらに製剤工場で 10~1,000 mg/m3のクロロホルムに 1~4年間ばく露された作業者68人中17人が肝腫大と診断され、うち3人で肝炎、14人で脂肪肝、10人で脾腫がみられた (環境省リスク評価第2巻 (2003)) との記述がある。 実験動物では、マウスに13週間強制経口、又は飲水投与した試験、ラットに3週間強制経口投与した試験で、区分2相当用量 (ガイダンス値換算: 14.8~60 mg/kg/day) で肝臓 (肝細胞の腫大、変性、脂肪化、初期肝硬変様変化など)、腎臓 (慢性炎症、近位尿細管の変性、壊死など)、脾臓 (白脾髄の萎縮、抗体産生細胞数の減少) への影響がみられ、またイヌに7.5年間カプセルを介して強制経口投与した試験でも、15 mg/kg/day (ガイダンス値換算: 12.9 mg/kg/day) で、肝臓の脂肪化に加え、血清ALT値の上昇がみられている (NITE有害性評価書 (2008)、環境省リスク評価第2巻 (2003))。さらに、吸入経路では、ラット及びマウスに13週間、又は2年間吸入ばく露 (蒸気と推定) した複数の試験で、区分1該当濃度 (ガイダンス値換算: 0.01~0.106 mg/L/6 hr/day) から、肝臓、腎臓に上記と同様の組織変化が認められた他、鼻腔への影響 (骨肥厚、嗅上皮の萎縮、化生、嗅上皮及び呼吸上皮の好酸性化) もみられている (NITE有害性評価書 (2008)、産衛学会許容濃度の提案理由 (2005))。 以上、ヒトでの知見より中枢神経系 (悪心、嘔吐) 及び肝臓を、実験動物での知見より呼吸器、肝臓、腎臓を標的臓器と考え、区分1 (中枢神経系、呼吸器、肝臓、腎臓) とした。なお、脾臓についてはヒトでの知見も少なく、肝硬変など重篤な肝毒性による二次的影響の可能性を否定できないため、標的臓器からは除外した。
誤えん有害性*
データ不足のため分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。