急性毒性
経口
【分類根拠】 (1)~(6)より、区分4が1件、区分外(国連分類基準区分5)が3件、区分外が2件該当する。よって件数の多い区分外(国連分類基準区分5)とした。
【根拠データ】 (1)ラットのLD50値:8,600 mg/kg(ACGIH(7th, 2001)、NTP TR166(1979)) (2)ラットのLD50値:4,573 mg/kg(雌)(NICNAS IMAP(Accessed Jun. 2018)) (3)ラットのLD50値:>5,200 mg/kg(雄)(NICNAS IMAP(Accessed Jun. 2018)) (4)ラットのLD50値:1,300 mg/kg (DFGOT vol. 5(1993)) (5)ラットのLD50値:2,500 mg/kg (DFGOT vol. 5(1993)) (6)ラットのLD50値:3,100 mg/kg (DFGOT vol. 5(1993))
経皮
【分類根拠】 (1)より、区分外とした。
【根拠データ】 (1)ウサギのLD50値:>2,000 mg/kg(NICNAS IMAP(Accessed Jun. 2018))
吸入:ガス
【分類根拠】 GHSの定義における固体である。
吸入:蒸気
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。なお、蒸気圧は0.116 Pa(Howard(1997)、推定値)で、わずかに昇華性がある。
吸入:粉じん及びミスト
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】 本物質は皮膚刺激性を示さないとする証拠(1)~(4)より、区分外とした。
【根拠データ】 (1)製造事業所の労働者へのばく露により酩酊様の影響が見られたものの、皮膚への刺激は発汗時に一般的に見られるものでもあり、全体の9%にしか微小な皮膚刺激性がみられず、ばく露量も特定できなかったとの報告がある(ACGIH(7th, 2001))。 (2)ウサギの皮膚刺激性試験(OECD TG 404相当、n=6)で本物質を4時間適用したところ、PII(皮膚一次刺激指数)は0.13(最大8)だったとの報告がある(NICNAS IMAP(Accessed Jun. 2018)、REACH登録情報(Accessed Jun. 2018)) (3)ウサギの皮膚刺激性試験(OECD TG 404相当、GLP準拠)で本物質を24時間適用したところ、Draizeスコア(紅斑)は0.25だが3日で完全に回復、Draizeスコア(浮腫)は0だったとの報告がある(NICNAS IMAP(Accessed Jun. 2018)、REACH登録情報(Accessed Jun. 2018))。 (4)ウサギの皮膚刺激性試験(OECD TG 404相当、GLP準拠)で本物質を24時間適用したところ、Draizeスコア(紅斑)は0.96だが7日で完全に回復、Draizeスコア(浮腫)は0だったとの報告がある(NICNAS IMAP(Accessed Jun. 2018)、REACH登録情報(Accessed Jun. 2018))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1)、(2)より、区分外(国連分類基準の区分3)とした。なお、新たな情報源を用いることで、旧分類から区分を変更した。
【根拠データ】 (1)ウサギを用いた眼刺激性試験(OECD TG405相当、n=6、GLP準拠)で本物質を適用したところ、24~72時間の平均Draizeスコアは角膜混濁で0(6/6匹)、虹彩炎で0.33(2/6匹)であり、7日で完全に回復したとの報告がある(NICNAS IMAP(Accessed Jun. 2018)、REACH登録情報(Accessed Jun. 2018))。 (2)ウサギを用いた眼刺激性試験 (OECD TG405相当、n=6)で本物質を適用したところ、24~72時間の平均Draizeスコアは角膜混濁で0.17、虹彩炎で0.17、結膜発赤で0.94、結膜浮腫で0.67であり、7日で完全に回復したとの報告がある(NICNAS IMAP(Accessed Jun. 2018)、REACH登録情報(Accessed Jun. 2018))。
呼吸器感作性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
【分類根拠】 (1)~(5)より、本物質はヒトに対して皮膚感作性を有すると考えられるため、区分1とした。なお、新たな情報源を用いることで、旧分類から区分を変更した。
【根拠データ】 (1)ジスルフィラム錠を取り扱った40歳女性看護師の前腕と顔面に10カ月間断続的に皮膚炎が見られ、ゴム手袋を着用後にも悪化したが、休日や週末に回復し、パッチテストを行ったところ本物質やチウラム混合物に陽性反応を示したとの報告がある(DFGOT(1997, Accessed Jun. 2018)、厚労省初期リスク評価書(2018))。 (2)本物質は皮膚感作性を有するだけでなく、ジチオカーバメートと交差反応するとの報告がある(DFGOT(1997, Accessed Jun. 2018)、厚労省初期リスク評価書(2018))。 (3)接触性皮膚炎が疑われた作業者408人に対してゴム化学品に対するパッチテストで185人に反応がみられ、うち92人が本物質に対して反応を示したとの報告がある(DFGOT(1997, Accessed Jun. 2018)、厚労省初期リスク評価書(2018))。 (4)ヒト2,260人に対する感作性試験で108人(4.8%)に本物質に対する反応がみられ、うち78人にはチウラム製剤の成分に対する反応性もみられたとの報告がある(DFGOT(1997, Accessed Jun. 2018)、厚労省初期リスク評価書(2018))。 (5)接触性皮膚炎患者3,851人に対するパッチテストで、145人(3.8%)にチウラム製剤に対して反応が、さらにそのうち35人中9人(29%)で本物質に対する反応が見られたとの報告がある(DFGOT(1997, Accessed Jun. 2018)、厚労省初期リスク評価書(2018))。
【参考データ等】 (6)厚生労働省は本物質を皮膚感作性ありと結論づけている(厚労省初期リスク評価書(2018))。 (7)EU CLPでは本物質をSkin Sens. 1に分類している。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】 (1)~(3)より、ガイダンスに従い分類できないとした。
【根拠データ】 (1)In vivo体細胞変異原性試験では、ラットの染色体異常試験、マウスの小核試験で陰性であった(厚労省初期リスク評価書(2018))。 (2)In vivo体細胞遺伝毒性試験では、マウスの骨髄と精原細胞を用いた姉妹染色分体交換(SCE)試験において、SCE数の増加が報告されている(NICNAS IMAP(Accessed Jun. 2018)、厚労省初期リスク評価書(2018))。 (3)In vitro体細胞変異原性試験では、ヒト末梢血リンパ球による染色体異常試験で陰性、マウスリンフォーマ試験で陽性であった (厚労省初期リスク評価書(2018)、DFGOT vol. 5(1993)、ACGIH(7th, 2001)、NICNAS IMAP(Accessed Jun. 2018))。
【参考データ等】 (4)その他in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験では陰性、哺乳類培養細胞の姉妹染色分体交換試験、DNA鎖切断試験で陽性であった(厚労省初期リスク評価書(2018)、DFGOT vol. 5(1993)、ACGIH(7th, 2001)、NICNAS IMAP(Accessed Jun. 2018))。 (5)厚生労働省は本物質の遺伝毒性は「判断できない」と結論している(厚労省初期リスク評価書(2018))。
発がん性
【分類根拠】 発がん性に関して、利用可能なヒトを対象とした報告はない。 (2)~(4)の初期の試験結果は信頼性が不十分と判断されたため、(1)の既存分類も踏まえ分類できないとした。なお、厚生労働省は本物質のヒトに対する発がん性については「判断できない」と結論している(厚労省初期リスク評価書(2018))。
【根拠データ】 (1)国内外の分類機関による既存分類では、IARCがグループ3(IARC 12(1976))、ACGIHがA4(ACGIH(7th, 2001))に分類している。
【参考データ等】 (2)2系統のマウスに100 mg/kg/dayを4週齢まで、その後323 ppmで約78週齢まで混餌投与した試験で、1系統の雄に肺腺腫及び肝腫瘍(ヘパトーマ)の増加、他1系統の雄に皮下の線維肉腫の増加がみられた。化学物質経口投与後の皮下の線維肉腫は極めて異例で、上記の知見には疑問があるとIARCは指摘している(IARC 12(1976)、厚労省初期リスク評価書(2018))。 (3)雄ラットに本物質を週2回強制経口投与(500 mg/kg/week、投与期間不記載)した試験で、平均生存期間が65週間で2例に精巣の良性間細胞腫がみられたが、IARCのワーキンググループは試験期間の不十分な試験と指摘した(IARC 12(1976)、厚労省初期リスク評価書(2018))。 (4)雌雄ラットに300又は600 ppmを107週間、雄マウスに500又は2,000 ppm、雌マウスに100又は500 ppmを108週間混餌投与した発がん性試験において、ラット、マウスの雌雄の投与群に用量相関性のある体重の低値が試験期間を通してみられたものの、発がん性は認められなかった(NTP TR166(1979)、厚労省初期リスク評価書(2018))。
生殖毒性
【分類根拠】 (1)のヒトに関する報告や、(2)の動物実験の報告からは、催奇形性の確定的判断は困難であり、その他発生影響は分類根拠とすべき所見はないと判断される。一方で(3)より、ラットの2世代試験において、親動物の一般毒性用量で児動物数の減少がみられたことから、区分2と分類した。なお、厚生労働省は催奇形性や胎児毒性に重きをおいた評価として、本物質の生殖毒性は「判断できない」と結論付けている(厚労省初期リスク評価書(2018))。
【根拠データ】 (1)本物質の摂取に伴う出生児の奇形(内反足、顔面奇形、あざらし肢症など)が複数報告されているが、他の物質の影響を除外することが困難であり、本物質がヒトへの催奇形性を有するとは判断できないと指摘されている(厚労省初期リスク評価書(2018)、DFGOT(1997, Accessed Jun. 2018))。 (2)妊娠ラット、又は妊娠マウスを用いた多くの発生毒性試験で、胎児体重の低値や骨化遅延など胎児毒性を示すデータはあるが、奇形発生の増加を示唆する報告はない(厚労省初期リスク評価書(2018)、DFGOT(1997, Accessed Jun. 2018))。 (3)ラットを用いた混餌投与による2世代試験では、500又は1,000 ppmの投与により親動物に体重増加抑制と交配一組当たりの同腹児数及び産児数の減少がみられた(厚労省初期リスク評価書(2018)、DFGOT(1997, Accessed Jun. 2018))。
【参考データ等】 (4)本物質は慢性アルコール中毒に対する抗酒薬として使用されているが、妊婦に対する安全性が確立されていないため、妊婦又は妊娠している女性に対しては禁忌とされている(医療用医薬品集2018(2017))。 (5)妊娠ハムスターに経口投与、妊娠モルモットに経口投与した試験では奇形発生がみられているが、溶媒の影響や用量相関性の検討が不十分などの理由により、結果の解釈は難しい(厚労省初期リスク評価書(2018))。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
【分類根拠】 (1)~(3)より、本物質の急性ばく露による標的臓器(所見)は複数の症例でみられた神経系(抑うつ、反射・痛覚消失、神経障害など)、腎臓(アルブミン尿)と考えられ、区分1(神経系、腎臓)とした。なお、消化管(嘔吐など)は1例のみの症例報告のため、標的臓器とはしなかった。旧分類とは異なる情報源を用いることにより、腎臓を標的臓器として追加した。
【根拠データ】 (1)本物質3 gを経口摂取し、急性中毒症状を生じた10歳の少女の症例では20時間後に眠気、瞳孔散大、2日目に嘔吐、不安、抑うつ、4日目に運動失調、アルブミン尿を伴う腎盂腎炎、3~6日目に記憶喪失がみられたとの報告がある(DFGOT(1993, Accessed Jun. 2018)、厚労省初期リスク評価書(2018))。 (2)本物質10 g を経口摂取10時間後に意識消失、チアノーゼ、呼吸困難、反射及び痛覚の消失を示した3歳7ヵ月の小児の症例、本物質10 g を摂取した24歳の女性が悪心、嘔吐、胃腸炎、頭痛、運動失調、アルブミン尿の増加を示したとの報告がある(DFGOT(1993, Accessed Jun. 2018)、厚労省初期リスク評価書(2018))。 (3)本物質10 g を摂取した15歳の少年では眼振、痙攣、昏睡など神経障害、記憶・認知障害がみられた報告がある(DFGOT(1993, Accessed Jun. 2018)、厚労省初期リスク評価書(2018))。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
【分類根拠】 (1)~(2)のヒトの知見から区分1(神経系、心血管系、消化管、肝臓)、(3)から区分1(甲状腺)に分類できる。よって、区分1(神経系、心血管系、甲状腺、消化管、肝臓)とした。なお、旧分類とは異なる情報源を用いて、分類結果を見直した結果、標的臓器を一部追加(心血管系、消化管)、又は削除(内分泌系:ヒトで一部甲状腺関連ホルモンや性腺刺激ホルモンなどホルモンレベルの変動の報告はあるが、ラットの甲状腺以外に内分泌系臓器に影響がみられていない)した。
【根拠データ】 (1)本物質は慢性アルコール中毒に対する抗酒薬である。重大な副作用は、精神神経系障害で、まれに重篤な脳障害(見当織障害、記憶障害、錯乱等)が現れたとの報告がある。また、AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP、LDH、ALP、ビリルビン等の上昇を伴う肝機能障害、黄疸が現われることがある(医療用医薬品集2018(2017))。 (2)その他の副作用として消化管障害(悪心、嘔吐、腹部痙攣、下痢、便秘)、神経障害(眠気、頭痛、多発性神経障害、末梢神経炎)、心血管障害(蒼白、低血圧、血管拡張、頻脈、不整脈、心筋梗塞)に加えて、非常にまれではあるが、肝機能障害、肝炎、黄疸を呈し、重篤な場合には肝性昏睡をきたし死亡する症例も報告されている(厚労省初期リスク評価書(2018))。 (3)ラットに本物質25 mg/kg/dayを30日間経口投与(90日換算:8.3 mg/kg/day、区分1の範囲)した結果、甲状腺の重量増加と過形成がみられた(DFGOT(1997, Accessed Jun. 2018)、厚労省初期リスク評価書(2018))。
吸引性呼吸器有害性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。