急性毒性
経口
ラットのLD50値として11件のデータ(2830 mg/kg(PATTY(5th, 2001))、3460 mg/kg、780 mg/kg、1600 mg/kg、2000 mg/kg、2370 mg/kg、878 mg/kg、12760 mg/kg、1820 mg/kg、2300 mg/kg、3540 mg/kg(以上 SIDS(2008)))のうち、6件がJIS分類基準の区分に該当しない、5件が区分4に該当することから、該当数の多いJIS分類基準の区分に該当しない(国連分類基準の区分5または区分に該当しない)とした。
経皮
ウサギのLD50値は13000 mg/kg(SIDS(2008))および12.1-13.1g/kg(ACGIH(2009)に基づき、区分に該当しないとした。
吸入: ガス
GHSの定義における固体である。
吸入: 蒸気
データなし。
吸入: 粉じん及びミスト
ラットのLC50値は768 ppm/4h(換算値:3.30 mg/L)以上(ACGIH(2009))との報告があるが、区分が特定できないので「分類できない」とした。なお、試験は飽和蒸気圧濃度(0.37 ppm:0.001585 mg/L)以上で実施されているので、粉塵による試験とみなした。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
ウサギの皮膚に試験物質を希釈せず適用した試験において、皮膚刺激指数(PII)は2.6(/8)で軽度の刺激に相当したが、中等度の刺激性(moderate irritation)との評価結果であった(SIDS(2008))ことに加え、本物質のpHは0.1N水溶液で11(Merck 14th, 2006))であり、EU分類がXi; R38であることも考慮して区分2とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
ウサギの眼に試験物質0.1 gを希釈せず適用した試験において、角膜、虹彩及び結膜に強い刺激性が観察され、眼刺激指数(最大値110でAOIに相当)は24時間から72時間までが50~56、96時間から168時間までが41~45であった(SIDS(2008))ことに加え、本物質のpHが0.1N水溶液で11(Merck 14th, 2006))であることを考慮して区分1とした。
呼吸器感作性
本物質を取り扱う男性労働者に吸入させた後、喘息性気道閉塞が引き起こされ、また、本物質を0.15%及びトリエタノールアミンを 0.32%含む切削油のエーロゾルにばく露した後でも、同様の症状が起きたとの報告(環境省リスク評価 第8巻(平成22年))があるが、分類にはデータ不足である。
皮膚感作性
【分類根拠】 (1)~(4)より、区分1Aとした。なお、新たな知見に基づき、分類結果を変更した。産衛学会(2017)にて感作性知見が公表されたため、旧分類から皮膚感作性項目のみ見直した(2021年)。
【根拠データ】 (1)日本産業衛生学会において、皮膚感作性物質第2群に分類している(産衛学会許容濃度等の勧告 (2017))。 (2)金属加工時の切削液による皮膚炎が疑われたドイツの労働者251名に対するパッチテストにおいて、本物質の2%溶液で試験した200名中6名(3%)に陽性反応がみられたとの報告がある(MOE 初期評価 (2021)、産衛学会許容濃度等の勧告 (2017)、ACGIH (8th, 2009))。 (3)金属加工に従事し、職業性の皮膚炎が疑われたドイツの労働者144名に対するパッチテストにおいて、本物質の2%溶液で試験した100名中2名(2%)に陽性反応がみられたとの報告がある(MOE 初期評価 (2021)、産衛学会許容濃度等の勧告 (2017))。 (4)ドイツ皮膚科情報ネットワーク(IVDK)が収集したパッチテストの試験結果では、1992年から2007年の間に8,791名に対して本物質の2%溶液でパッチテストが実施されており、そのうち157名(1.8%)が陽性であり、157名中60名が金属加工の職歴を有する労働者であった。また、男性労働者7,112名における陽性率は、金属加工産業の職歴がない3,835名が1.0%であったのに対して、職歴のある3,277 名では 3.1%と有意に高く、その中でも切削液にばく露したことのある労働者669名では 7.5%と有意に高かったとの報告がある(MOE 初期評価 (2021)、産衛学会許容濃度等の勧告(2017))。
【参考データ等】 (5)DFGでは、皮膚感作性Shに分類されている。 (6)モルモット(n = 20)を用いたMaximisation試験(OECD TG 406、GLP、皮内投与:5%溶液)において、惹起後24時間後の陽性率は10%(2/20例)、48時間後の陽性率は5%(1/20例)で、陰性であるとの報告がある(SIAR (2001)、AICIS IMAP (2013)、REACH登録情報 (Accessed Oct. 2021))。
生殖細胞変異原性
マウスの13週間経皮投与による赤血球を用いた小核試験(体細胞を用いたin vivo 変異原性試験)で、陰性の結果(SIDS(2008))に基づき、区分に該当しないとした。なお、in vitro試験では、エームス試験、CHO細胞を用いた染色体異常試験、およびマウスリンパ腫細胞を用いた遺伝子突然変異試験でいずれも陰性(NTP DB 375254(Access on Sep. 2011))の報告がある。
発がん性
IARCでグループ2Bに分類されている(IARC(2011))ことに基づき、区分2とした。なお、ラットを用いた103週間経皮投与試験で発がん性の証拠は見出されなかったが、マウスを用いた103週間経皮投与試験では、雌雄で肝細胞腫瘍の発生率の増加、雄で尿細管腫瘍の発生率の増加が認められ、マウスでは明らかな発がん性の証拠が得られたと結論されている(NTP TR 478(1999))。
生殖毒性
ラットの妊娠6~19日に経口投与による発生毒性試験において、125または200 mg/kg以上の用量で、体重増加抑制、摂餌量の低下、腎臓重量の増加など母動物の一般毒性が見られた用量で、生殖に対する影響として、着床後死亡率の増加および出生後早期死亡の増加が報告されている(NTP TER 96001(1999))ことから、区分2とした。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
ラットに経口投与により、200~1600 mg/kgで肝臓実質細胞に軽微な障害が現れ、1600 mg/kgでは肝細胞に大脂肪滴と限局性細胞質変性、400 mg/kg以上で腎臓の尿細管細胞壊死、さらに800 mg/kgで血清中の尿素、SGOT、およびLDHの増加が認められた(SIDS(2008))。以上より、肝臓に対してはガイダンス値の区分1、腎臓に対しては区分2に相当する用量で影響が報告されていることから、区分1(肝臓)、区分2(腎臓)とした。また、ラットに1476 ppm(6.35 mg/L)を105分間吸入ばく露(4時間換算値:2.778 mg/L)により、死亡例では、嗜眠、協調不能、ラ音と喘ぎを特徴とした不規則緩徐呼吸が現れ、特徴的所見として、心拍数の低下に次ぐ増加、著しい呼吸窮迫、収縮期血圧増加がみられ、主な病理組織学的所見は肺水腫であった(SIDS(2008))との記載により、ばく露濃度はガイダンス値区分2に相当することから区分2(呼吸器系)とした。なお、ACGIH(2001)に、ラットに200 mg/kg以上の経口投与で中枢神経抑制(麻酔作用、鎮静作用)の記載があるが、ACGIH(2009)では採用されておらず、詳細も不明であるため分類の根拠としなかった。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
ラットに3ヵ月間吸入ばく露(ミスト)した試験において、0.015 mg/L/6h以上の用量で喉頭の扁平上皮化生、0.15 mg/L/6h以上では咽頭、気道に重度の炎症が見られ(SIDS(2008))、用量は区分1ガイダンス値内であるため区分1(気道)とした。また、ラットに42~550 mg/kg/dayを49日間飲水投与した試験において、155 mg/kg/day(90日換算値:84.3 mg/kg/day)以上の用量で正球性貧血、尿細管上皮細胞の破壊、硝子円柱を伴った遠位尿細管の拡張と様ーな早期壊死性変化、肝細胞の混濁腫脹と塩基性の消失を特徴とする早期の変性変化が見られ(SIDS(2008))、ラットに25~436 mg/kg/dayを3ヵ月間飲水投与した試験では、用量依存的な小球性貧血の発生、腎症、尿細管壊死およ鉱質化の発生率または程度の増強が認められた(SIDS(2008))との報告に基づき、影響用量はガイダンス値区分2に相当していることから区分2(血液、腎臓、肝臓)とした。なお、ラットの飲水による13週間反復投与試験において、1250 ppm(124 mg/kg/day)以上の用量の全ての動物で脳と脊髄の脱髄が認められており(NTP TOX 20(1992))、神経系への影響が示唆されるが、区分2のガイダンス値を超えた用量であるため分類の根拠としなかった。
誤えん有害性*
データなし。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。