急性毒性
経口
GHS分類: 区分3
ラットのLD50値 (OECD TG 401) として、252.4 mg/kg (雄)、181.0 mg/kg (雌) (厚労省既存化学物質毒性データベース (Access on October 2016)) との報告に基づき、区分3とした。
経皮
GHS分類: 区分3
ウサギのLD50値として、336 mg/kg (雄)、361 mg/kg (雌) (ATSDR (2012)、CICAD 78 (2013)) の報告に基づき、区分3とした。
吸入:ガス
GHS分類: 分類対象外
GHSの定義における固体である。
吸入:蒸気
GHS分類: 分類対象外
GHSの定義における固体である。
吸入:粉じん及びミスト
GHS分類: 区分1
ラットのLC50値 (4時間) として、70 mg/m3 (雄)、31 mg/m3 (雌) (ATSDR (2012)、CICAD 78 (2013)) の2件の報告があり、1件は区分1に、1件は区分2に該当する。有害性の高い区分を採用し、区分1とした。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 区分1
本物質 (水和物) に関する情報は得られなかったが、同じく水溶性の本物質の無水物をウサギの皮膚に4時間適用した試験において、皮膚の紅斑、浮腫、壊死が認められたとの報告がある (ATSDR (2012))。また、EU RARには、水溶解度の高い六価のクロム化合物は、一定の条件下で、重篤な皮膚への影響を引き起こすと結論付けている (EU-RAR (2005))。よって、区分1とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 区分1
本物質を含む水溶解度の高い六価のクロム化合物は、一定の条件下で、重篤な皮膚への影響を引き起こすとの報告 (EU-RAR (2005))や、眼に対して重篤な損傷を引き起こすとの記載 (EU-RAR (2005))に基づき、区分1とした。なお、ウサギを用いた眼一次刺激性試験において、本物質の無水物の水溶液を点眼した結果、ウサギの眼に刺激性は認められなかったとの記載があるが、試験の詳細が不明である (ATSDR (2012))。
呼吸器感作性
GHS分類: 区分1B
日本産業衛生学会許容濃度勧告では、クロム及びクロム化合物は気道感作性第2群に指定されていることから (産衛誌 58 (2016))、区分1Bとした。なお、六価クロムを含む化合物を取り扱った作業者に喘息、呼吸困難などの呼吸器感作性を発症した症例が報告されている (ATSDR (2012))。
皮膚感作性
GHS分類: 区分1A
日本産業衛生学会許容濃度勧告では、クロム及びクロム化合物は皮膚感作性第1群に指定されていることから (産衛誌 58 (2016))、区分1Aとした。なお、六価クロムを含む化合物について、職業的に暴露した作業者に感作性を示唆する皮膚炎が認められており (CICAD 78 (2013))、また、モルモットを用いた皮膚感作性試験において陽性の結果が報告されている (ATSDR (2012))。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 区分1B
In vivoでは、マウスの末梢血赤血球又は骨髄細胞を用いた飲水経口投与小核試験で陰性、陽性の結果、マウスの骨髄細胞を用いた腹腔内投与小核試験で陽性である (NTP DB (Access on October 2016)、ATSDR (2012))。In vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、哺乳類培養細胞の染色体異常試験で陽性である (NTP DB (Access on October 2016)、厚労省既存化学物質毒性データベース (Access on October 2016)、ATSDR (2012))。本物質に関するin vivo生殖細胞変異原性、in vivo生殖細胞遺伝毒性のデータはないが、水溶性Cr (VI) はin vivo生殖細胞変異原性を有する (EU-RAR (2005)) との評価がされている。したがって、水溶性Cr (VI) である本物質にEU-RAR (2005) の評価を適用し、区分1Bとした。
発がん性
GHS分類: 区分1A
本物質は六価のクロム化合物に該当し、六価クロム化合物はIARCでグループ1 (IARC 100C (2010)) に、EPA (IRIS (1998))、NTP (NTP RoC (13th, 2014)) でともにK (Known (to be) human carcinogen) に、ACGIHでA1 (ACGIH (7th, 2001)) に、日本産業衛生学会で第1群 (許容濃度の勧告 (2016)) にそれぞれ分類されている。以上より、本項は区分1Aとした。なお、本物質自体のデータは、ヒト、実験動物ともに情報はないが、ラット及びマウスを用いた二クロム酸ナトリウム二水和物の2年間飲水投与による発がん性試験において、ラットでは口腔粘膜及び舌の扁平上皮乳頭腫又は扁平上皮がんの頻度の増加が、マウスでは小腸の腺腫とがんの合計頻度の増加が報告されている (NTP TR546 (2008)、ATSDR (2012)、CICAD 76 (2013))。
生殖毒性
GHS分類: 区分1B
ラットを用いた本物質強制経口投与による反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験 (OECD TG 422) において、一般毒性影響 (ヘモグロビンの低値、網状赤血球数の高値、胃粘膜のびらん・潰瘍性変化など) がみられる 30 mg/kg/day で妊娠期間の延長がみられたが、その他には親動物、児動物ともに生殖発生影響は認められなかった (厚労省既存化学物質毒性データベース (Access on October 2016))。この報告以外に本物質自体の毒性情報はない。しかしながら、本物質は六価クロム化合物に該当し、六価のクロム化合物の生殖影響に関する情報が利用可能と考えられる。すなわち、ヒトでは六価クロムへの職業ばく露で精子数及び精子運動能の低下がみられたとの報告、並びに血中クロム濃度と精子の尾の欠損、精子数の減少、精子運動能の減少との間に強い相関がみられ、クロム濃度の増加に伴い精子生存率は減少したとの報告がある (CICAD 78 (2013))。
実験動物ではニクロム酸カリウムを雄マウスに7週間混餌投与した試験で、精子数の減少、精細管の変性、形態異常精子の増加がみられたとの報告がある (CICAD 76 (2013)、ATSDR (2012))。また、ニクロム酸カリウムを雌マウスに20日間飲水投与した2つの試験では、受胎率の低下、黄体数の減少、着床数の減少、着床前胚損失の増加、性周期期間の増加が1件で、成熟卵胞数の減少、卵巣の組織変化 (卵胞の核濃縮、閉鎖卵胞など)、性周期期間の増加が他の1件で報告されている (CICAD 76 (2013)、ATSDR (2012))。 同様に、ニクロム酸カリウムを雌ラットに90日間飲水投与した試験でも、体重増加抑制がみられる用量で、性周期の消失がみられている (CICAD 76 (2013)、ATSDR (2012))。一方、二クロム酸カリウムを妊娠前に雌マウスに飲水投与した試験、及び妊娠マウスに飲水投与した試験では体重増加抑制など母動物毒性が発現するよりも低い用量から、胎児に胎児重量減少、着床後胚損失の増加、胎児死亡率増加、皮下出血斑、短曲尾などの発生毒性がみられた (CICAD 76 (2013)、ATSDR (2012))。
以上、六価クロム化合物はヒトで精子への影響が懸念され、実験動物では精巣及び卵巣の形態及び機能への有害影響、受胎率低下、胚/胎児毒性、外表奇形など広範な生殖発生毒性を示す知見がある。よって、本項は区分1Bとした。なお、EUは本物質をRepr. 1Bに分類している (ECHA C&L Inventory (Access on October 2016))。