急性毒性
経口
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分4とした。
【根拠データ】 (1) ラットのLD50: 雄: 924 mg/kg、雌: 925 mg/kg (既存点検結果 (Access on April 2020)) (2) ラットのLD50: 1,200 mg/kg (ACGIH (7th, 2019)、GESTIS (Access on April 2020)、HSDB (Access on April 2020))
経皮
【分類根拠】 (1) より、区分に該当しない。
【根拠データ】 (1) ラットのLD50: 5,250 mg/kg (ACGIH (7th, 2019)、既存点検結果 (Access on April 2020)、GESTIS (Access on April 2020)、HSDB (Access on April 2020))
吸入: ガス
【分類根拠】 GHSの定義における液体であり、区分に該当しない。
吸入: 蒸気
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。なお、旧分類で用いたICSCに基づく蒸気圧 (5.32 Pa) は根拠データが不明であり、根拠データがある0.02 mmHg (0.372 mg/L) (ACGIH (7th, 2019)、HSDB (Access on April 2020)) を採用したために、本物質は蒸気ではなくミストと判断し、旧分類から分類結果を変更した。
吸入: 粉じん及びミスト
【分類根拠】 (1) より、区分3とした。旧分類の蒸気で用いたICSCに基づく蒸気圧 (5.32 Pa) は根拠データが不明であり、根拠データがある0.02 mmHg (0.372 mg/L) (ACGIH (7th, 2019)、HSDB (Access on April 2020)) を採用したために、本物質は蒸気ではなくミストと判断し、分類が変更となった。なお、ばく露濃度が飽和蒸気圧濃度 (0.372 mg/L) よりも高いため、ミストとしてmg/Lを単位とする基準値を適用した。新たな情報源の使用により、旧分類から分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) ラットのLC50 (4時間): 549 mg/m3 (0.549 mg/L) (ACGIH (7th, 2019)、GESTIS (Access on April 2020)、HSDB (Access on April 2020)) (2) 本物質の蒸気圧: 0.02 mmHg (25℃) (飽和蒸気圧濃度換算値:0.372 mg/L) (HSDB (Access on April 2020))
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】 (1)~(3) より、区分2とした。
【根拠データ】 (1) 本物質はばく露された労働者の眼や皮膚に刺激性を示し、直接の皮膚接触では水疱を生じる (ACGIH (7th, 2019))。 (2) 本物質は粘膜及び皮膚に刺激性を示す (GESTIS (Access on April 2020))。 (3) ウサギを用いた実験において開放適用では刺激性を示さないが、閉塞適用では軽度の発赤がみられ、24時間には浮腫及び水疱がみられたが、通常の使用では皮膚の問題は生じない (Patty (6th, 2012))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1)~(4) より、区分2とした。細区分に十分なデータが確認できなかったため、分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) 本物質のウサギの眼への適用は痛みを引き起し、わずかな結膜刺激及び角膜表層の傷害を示す (ACGIH (7th, 2019)、HSDB (Access on April 2020))。 (2) 本物質はばく露された労働者の眼や皮膚に刺激性を示し、直接の皮膚接触では水疱を生じる (ACGIH (7th, 2019))。 (3) 本物質は粘膜及び皮膚に刺激性を示す (GESTIS (Access on April 2020))。 (4) ヒトにおいて本物質のばく露は眼、鼻、上気道への刺激性を示す (Patty (6th, 2012))。
呼吸器感作性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
【根拠データ】 (1) in vitro試験では、Ames試験及びCHL細胞を用いた染色体異常試験で陰性 (既存点検結果 (Access on April 2020)) の報告がある。なお、Ames試験で古い試験では陽性と報告 (ACGIH (7th, 2019)) された知見もある。
発がん性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
【参考データ等】 (1) 腫瘍感受性のH2:ICR Swiss系マウスに経皮投与した試験で、適用部位に腫瘍の発生増加はみられなかったが (Patty (6th, 2012))、前胃の乳頭腫数が統計学的に有意に増加した (ACGIH (7th, 2019)、Patty (6th, 2012)) と述べられている。ただし、この所見の生物学的意義は不明である (ACGIH (7th, 2019))。
生殖毒性
【分類根拠】 (1) より、親動物毒性がみられる用量で生殖能に影響はみられず、児動物の体重に影響がみられている。この影響は分類根拠には不十分と判断した。また、発生影響についての十分なデータは得られなかった。したがって、データ不足のため分類できないとした。
【根拠データ】 (1) ラットを用いた強制経口投与による簡易生殖毒性試験 (OECD TG 421) において、親動物毒性 (雌雄で肝臓の小葉中心性肝細胞肥大、甲状腺濾胞細胞の肥大、雌で哺育期間中の体重増加抑制傾向及び摂餌量減少傾向) がみられる用量で、児動物で体重低値 (雄で生後4日、雌で生後1日及び4日に有意) がみられた (既存点検結果 (Access on April 2020))。
【参考データ等】 (2) ラット新生児を用いた哺育期経口投与毒性試験において、雌雄で肝臓の絶対及び相対重量増加、血清蛋白質の高値がみられている (既存点検結果 (Access on April 2020))。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
【分類根拠】 (1)、(2) より、本物質に急性ばく露されたヒトにおいて気道刺激性、中枢神経系への影響がみられ、(3)、(4) の実験動物でも中枢神経系への影響を示唆する所見、気道刺激性がみられていることから、区分1 (中枢神経系)、区分3 (気道刺激性) とした。なお、(1) では肝障害も報告されているが、1例のみの報告であることから、肝臓は標的臓器としなかった。
【根拠データ】 (1) 本物質を用いて1日間実験を行った1名の化学者 (平均ばく露濃度: 2 ppm; ピーク時ばく露濃度: 約16 ppm) が重度の肝障害を生じ瀕死状態となった事例で、初期症状として頭痛、食欲不振、嘔吐、胃痛がみられた。同じ現場にいた別の化学者は、眼及び鼻の軽度の刺激を訴え、その後、頭痛と倦怠感があった (ACGIH (7th, 2019))。 (2) 本物質の急性ばく露を受けた1名の陽電子放射断層撮影 (PET)、脳波及び神経行動学的検査を行った結果、広範な中枢神経系障害が示唆された (ACGIH (7th, 2019))。 (3) ラットに本物質の飽和蒸気をばく露した結果、眼及び鼻に軽度の刺激性がみられた (ACGIH (7th, 2019))。 (4) ラットを用いた単回経口投与試験において、投与後、自発運動の低下及び腹臥位がみられ、少数に振戦も観察された (既存点検結果 (Access on April 2020))。
【参考データ等】 (5) 本物質は中枢神経系抑制物質であり、肝臓、腎臓への毒性があるとの記載がある (Patty (6th, 2012))。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
【分類根拠】 (1) より、実験動物への経口投与において区分2の用量から肝毒性を示すパラメータの変動を伴う影響がみられており、(2) より、実験動物への吸入ばく露において区分1の範囲で肺、肝臓への影響がみられていることから、区分1 (呼吸器)、区分2 (肝臓) とした。旧分類では (1) の情報に基づき区分1 (肝臓)、区分2 (甲状腺) としていたが、当該試験で区分1の範囲でみられた肝臓の変化は適応性変化と考えられ、区分2とされた甲状腺の所見については肝臓での甲状腺ホルモンの代謝・分解の亢進による変化と考えられる。また、旧分類では (2) の情報に基づき区分2 (肺) としていたが、区分1の範囲の濃度のばく露により肺への影響がみられたとの情報があること、気道刺激性があることを考慮し、区分1 (呼吸器) が適切と考えられた。従って、旧分類から分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) ラットの28日間経口投与試験において、20 mg/kg/day (90日換算: 6 mg/kg/day、区分1の範囲) 以上で肝臓重量増加、小葉中心性肝細胞肥大等、60 mg/kg/day (90日換算: 19 mg/kg/day、区分2の範囲) 以上で甲状腺濾胞上皮肥大、200 mg/kg/day (90日換算: 62 mg/kg/day、区分2の範囲) で一過性の軟便、腎臓重量増加、雄で尿のpH低下、γGTの増加、総ビリルビンの減少、血小板数の減少がみられた。甲状腺での変化については、肝臓での甲状腺ホルモンの代謝・分解の亢進による可能性が考えられると考察されている (既存点検結果 (Access on April 2020))。 (2) ウサギ、モルモット、ラット、マウスおよびサルに14 ppm (ガイダンス値換算: 0.23 mg/L、区分2の範囲) で100~106日間吸入ばく露 (7時間/日、5日/週) した結果、全ての動物種で肺における浮腫、肝臓における軽度の脂肪変性がみられ、4 ppm (ガイダンス値換算: 0.07 mg/L、区分1の範囲) で180日間吸入ばく露 (7時間/日、5日/週) した結果、一部の動物種で肺及び肝臓の組織にわずかな変化がみられたとの報告がある (ACGIH (7th, 2019)、Patty (6th, 2012))。
【参考データ等】 (3) ACGIHはTLV-TWAの設定根拠として眼及び上気道刺激性、肺水腫、肝障害を挙げている (ACGIH (7th, 2019))。
誤えん有害性*
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。本有害性項目の内容に変更はない。