急性毒性
経口
GHS分類: 区分4
ラットのLD50値 (OECD TG 401) として、434 mg/kg (SIAP (2014)、HSDB (Access on September 2016)) との報告に基づき、区分4とした。
経皮
GHS分類: 分類できない
データ不足のため分類できない。
吸入:ガス
GHS分類: 分類対象外
GHSの定義における固体である。
吸入:蒸気
GHS分類: 分類対象外
GHSの定義における固体である。
吸入:粉じん及びミスト
GHS分類: 分類できない
データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 区分外
ウサギの皮膚刺激性試験 (OECD TG 404) において紅斑及び浮腫のスコアが刺激スコアの閾値2.3未満であり、48時間以内に回復していることから刺激性が認められなかったとの記載 (SIAP (2014)) より、区分外とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 区分1
SIAPには、「可溶性コバルト塩は、コバルトイオンによる生物学的利用能 (急性経口毒性、呼吸器系及び眼刺激性、皮膚感作性、反復投与毒性、発がん性及び生殖) に基づいてヒトの健康に有害である」との記載がある (SIAP (2014))。また、ウサギの眼刺激性試験 (OECD TG 405) において、不可逆性の影響が認められたとの報告がある。よって、区分1とした。
呼吸器感作性
GHS分類: 区分1
日本産業衛生学会の許容濃度勧告では、コバルト及びコバルト化合物は気道感作性第1群に指定されている (産衛学会勧告 (2016))。また、長期間に金属加工業務に従事した作業者で喘息用症状を発症した作業者では、コバルトに対するIgA及びIgE抗体が産生され、コバルトがハプテンとして作用することが明らかにされている (ATSDR (2004))。以上より、区分1とした。なお、本物質はEU CLP分類において、「Reps. Sense 1 H334」に分類されている (ECHA C&L Inventory (Access on September 2016))。
皮膚感作性
GHS分類: 区分1A
日本産業衛生学会の許容濃度勧告では、コバルト及びコバルト化合物は皮膚感作性第1群に指定されている (産衛学会勧告 (2016))。また、コバルトによりヒトで皮膚炎を起こすとの報告が多数あり、塩化コバルト及び硫酸コバルトは実験動物で皮膚感作性が認められ (ATSDR (2004))、本物質は塩化コバルト及び硫酸コバルトと同様に皮膚感作性を有することが示唆されている (SIAP (2014))。以上より、区分1Aとした。なお、本物質はEU CLP分類において、「Skin. Sense 1 H317」に分類されている (ECHA C&L Inventory (Access on September 2016))。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 分類できない
本物質のデータはない。しかし、In vivoでは、可溶性コバルト化合物(Ⅱ)の塩化コバルトを用いたマウス骨髄細胞の小核試験、染色体異常試験で陽性の報告がある (ATSDR (2004)、CICAD 69 (2006)、環境省リスク評価書(2013)) ものの、これらのin vivo試験データは信頼性や妥当性が十分ではない。また、作業者ばく露では、末梢血の有意な小核及びDNA傷害は検出されていないとの報告がある (SIAP (2014))。In vitroでは、可溶性コバルト化合物(Ⅱ)は、細菌の復帰突然変異試験で陽性、陰性の報告、哺乳類培養細胞の小核試験、染色体異常試験、遺伝子突然変異試験で陽性である (ATSDR (2004)、CICAD 69 (2006)、環境省リスク評価書 (2013)、IARC 52 (1991)) が、上記のin vivo小核試験の報告の中で、分離したマウス骨髄細胞を用いて行ったin vitro小核試験ではS9の有無にかかわらず陰性であった。SIAP (2014) では、可溶性コバルトは変異原性 (突然変異) を細菌、細胞に示さないが、in vitroでは染色体損傷を示し、これは活性酸素種(ROS)によるものと推察され、Weight of evidenceによれば、in vivo染色体損傷試験での陰性知見及びヒト職業ばく露での陰性知見から、in vivoでは保護作用が機能するとしている。以上より、可溶性コバルト化合物はin vivoでの影響はなく、分類できないとした。
発がん性
GHS分類: 区分2
本物質自体の試験データはないが、硫酸コバルト及びその他のⅡ価の水溶性コバルトに対しIARCがグループ2B (IARC 86 (2006)) に、コバルト及びコバルト化合物に対しNTPがR (NTP RoC (14th, 2016)) に、日本産業衛生学会が第2群B (産衛学会勧告 (2016); 提案年度: 1995年) にそれぞれ分類している。したがって、本項は区分2とした。なお、EUは本物質をCarc 1B に分類し、SVHC指定した (ECHA (2011))。
生殖毒性
GHS分類: 区分1B
本物質は水に可溶との情報がある (CICAD 69 (2006))。
本物質自体の生殖影響に関する情報はないが、可溶性コバルト化合物の情報が利用可能と考えられる、すなわち、雄ラットに塩化コバルト六水和物を混餌投与 (265 ppm: 20 mg Co/kg/day) した試験では、35日間投与後に精巣に中等度から重度のうっ血がみられ、70日間投与後には精巣の胚上皮及びセルトリ細胞における退行性ないし壊死性の変性に加えて、精原細胞や精母細胞、精子細胞への著しい影響が認められた (環境省リスク評価第11巻 (2013))。また、塩化コバルトを雄マウスに12週間飲水投与後に無処置雌と交配させた試験では、200 mg/L 以上で、精巣上体精子数の減少及び生存胎児数の減少、400 mg/L 以上で妊娠動物数の減少 (雄の受胎能低下)、精巣重量の減少、精巣精子数の減少及び精子形成能の低下がみられ、精巣の組織検査ではライディッヒ細胞の肥大、うっ血した血管、精原細胞の変性、精細管及び間質組織の壊死などが認められた (環境省リスク評価書第11巻 (2013)、CICAD 69 (2006))。さらに、硫酸コバルトを妊娠雌ラットに強制経口投与 (妊娠1~21日) した試験では、母動物毒性発現量 (100 mg/kg/dayで肝臓・副腎・脾臓相対重量の減少) より低い50 mg/kg/dayから、胎児に奇形発生 (頭蓋、脊柱、腎盂、尿細管、卵巣、精巣の奇形) が報告され、妊娠マウスへの経口投与 (妊娠6~15日) でも 50 mg/kg/day で、胎児の眼瞼、腎臓、頭蓋、脊椎に奇形発生がみられたと報告されている (環境省リスク評価書第11巻 (2013))。
以上、可溶性コバルト化合物では経口経路で雄生殖器官への有害性影響とそれによる受胎能の低下、並びに母動物毒性のない用量で催奇形性を示すことが報告されている。本物質も可溶性コバルト化合物であり、同様の生殖発生毒性を生じる可能性が十分にあると考えられ、本項は区分1Bとした。なお、EUは硫酸コバルト、二塩化コバルトなど無機コバルト化合物と共に本物質を Repr. 1Bに分類し、SVHC指定した (ECHA (2011))。